はじめに
myfansを少しでも見てきた人なら、「ゆっくりな」という名前を知らないはずがない。

2023年後半から2024年にかけて、彼女はmyfansの実質トップに君臨していた。 ルルタンが頭角を現すまで、myfansのランキングを語るときの基準点は常にゆっくりなだった。
そして彼女の本当の凄さは、myfans単体の売上ではない。 myfans、Fantia、xFans、Fansly、OnlyFans——あらゆるファンクラブ系プラットフォームに同時展開し、Instagramは多言語で運用して海外フォロワーまで取り込んでいた。 TikTok単体で総フォロワーは100万人を超え、2023年時点ですでに推定年収1億円超えと業界では語られていた。
「月1,500万円」と書かれている記事も多いが、これは氷山の一角でしかない。 全媒体合算では、月数千万円から月1億円規模の収入があったと考えるのが、業界感覚としては妥当な線になる。
そして彼女のもう一つの特徴は、顔がディープフェイクで生成されたAIだったということ。

本人は公言していないが、生成AI業界では「ほぼ確定」とされている事実だ(参考: ヒノマサヒブログ「ゆっっくりな。はAI?謎に迫る人気の秘密を解明」)。 体は実在の女性、顔はAI——この「ハイブリッド美女」というモデルで、彼女は数千万から億の収入を作り上げた。
ところが、2025年後半以降、彼女のSNSは活動量が落ちている(一部はアカウント自体が消えていた)。 XアカウントもInstagramも以前に比べると投稿頻度が落ちているのは明らかだ。myfans本体での存在感も薄れている。
なぜ彼女は売れたのか。 そして、なぜ彼女は落ちたのか。
これは1人のクリエイターの話というより、「AI美女×ファンクラブビジネス」というモデルが2〜3年間でたどった興亡の構造そのものだ。 70名のプロデュースをしてきた立場から、興・盛・衰の3段階に分けて整理していく。
興 ── なぜ彼女は売れたのか
仕掛け1:TikTok起点ではなく、4媒体同時並行で爆発させた
ここを誤解している人が多い。 ゆっくりなはTikTokだけでブレイクしたわけじゃない。
活動初期から、TikTok・X・Instagram・YouTubeの4媒体を同時並行で運用していた(参考: SMADAN「ゆっっくりなの正体って誰?」)。 TikTokが最も拡散力を持っていたのは事実だが、フォロー先としてはInstagramやXに着地させ、最終的にmyfansに誘導する複層動線が最初から組まれていた。
これは個人クリエイターの感覚ではない。 完全にプロデューサー主導のメディアミックス設計だ。 立ち上げ初期から「どの媒体でどう機能させるか」が設計されていた、と僕は見ている。

仕掛け2:市場の空白を完璧に取った
2022年後半から2023年前半にかけて、myfans界隈には一つの「埋まらない需要」があった。
それは、「顔バレを完全回避しつつ、実在の女性レベルの肉体を見せられる」コンテンツ供給。 顔出しを避けたい子はマスクや首から下だけ、しかし需要側は「顔も含めて美女を見たい」。 このギャップは、誰もうまく埋められていなかった。
ゆっくりなは、この空白を技術で埋めた。 ディープフェイクで体に「実在しないレベルで整った顔」を被せることで、顔バレリスクゼロのまま完璧な美女コンテンツを生み出した。
供給がほぼ存在しなかった領域に、独占的に飛び込んだ。 これがまず第一の勝因。

仕掛け3:完璧すぎる顔のパラドックス
通常、AI生成の顔は「整いすぎていて不自然」とされる。 これは弱点として語られることが多い。
ところが、ゆっくりなの場合、この「整いすぎ」が逆に武器になった。
考えてみてほしい。 ファンクラブを買う男性が求めているのは、現実の彼女ではなく、「現実の彼女より少し綺麗な存在」だ。 理想化された存在を消費したい、というのがこの市場の本質。

完璧すぎる顔は、その「理想化された存在」の極北にある。 不自然さは「夢っぽさ」として消費され、整いすぎは「届かない美しさ」として価値化された。
これは、AI美女ビジネス全体が成立する根拠でもある。 リアルさで勝負しないからこそ、リアルでは作れない「過剰な美」を売れる。
仕掛け4:チーム制によるスケーラビリティ
実は、これが一番重要な勝因だと僕は見ている。
通常のmyfansクリエイターは、本人ひとりが演者・撮影者・編集者・SNS運用者を兼ねる。 これだと月収300〜500万円が物理的な天井になる。 時間と精神的体力の上限があるからだ。
ところがハイブリッド型は、役割が完全に分業できる。 体はモデル、顔はAIエンジニア、撮影は撮影スタッフ、編集は編集者、SNS運用は別の人間、戦略はプロデューサー。
属人性が低くなる分、人数を増やせばコンテンツ供給量も増える。 これは「個人」ではなく「組織」としての売上構造になる。
業界記事の試算で「ゆっくりな月1,500万円」と書かれているのを見るたびに、僕は「桁が一つ足りないな」と思っていた。 組織として動いている以上、上限はもっと高い場所にある。

仕掛け5:多言語展開で海外需要を取り切った
そして、これがゆっくりな帝国の本当の規模を作った要素。
国内: myfans、Fantia、CandFans 海外: OnlyFans、Fansly、xFans SNS: TikTok(日本語)、Instagram(多言語)、YouTube、X(多言語含む)
Instagramを多言語で運用していたという事実は、海外需要を本気で取りに行っていた証拠だ。 アジア系美女の需要は世界的に高く、特にOnlyFans・Fanslyでは単価が国内の倍以上で取れる。
myfans単体で月1,500万円、ここに海外プラットフォームが乗ると、合算で月数千万円〜月1億円という規模感になる。
盛 ── 帝国の絶頂期に何が起きていたか
2023年後半から2024年にかけて、ゆっくりなは業界全体に2つの大きな影響を与えた。
影響1:「ディープフェイク商法」が産業化した
ゆっくりなが成功を可視化したことで、「同じことをやれば自分も稼げる」と考える業者が一気に増えた。
ZAC氏が「月1000万円達成者と書く AI×ファンクラブでリスクなしに稼ぐ裏技」というnote記事を販売開始。 ゆっけ氏も同様のノウハウ商材を展開。 さとり氏は「myfansで初月200万円を達成した方法」を10万円で販売。 ファントムレディ氏は「ディープフェイク×マイファンズ〜無限の可能性〜」というシリーズを展開。
ディープフェイク×ファンクラブのノウハウは、2024年中に「商材として確立した産業」になった。 価格は1万円〜10万円帯。 誰もが「次のゆっくりなになれる」と信じて、参入した。

影響2:プラットフォーム側の規約意識を変えた
ゆっくりなの存在は、myfans運営側の認識も変えた。
2024年中、myfansは生成AIコンテンツについて比較的緩い運用をしていた。 日本国内向けのAI美女クリエイターは、ほぼmyfansに集まっていたと言ってもいい。
ところが、ディープフェイク商材が産業化し、模倣業者が殺到するにつれ、運営側は明らかに警戒を始めた。 このときが、帝国の頂点だった。
衰 ── なぜ落ち目になったか
ここから、5つの構造変化が同時に起きる。
衰退要因1:模倣業者の大量流入によるコモディティ化
ノウハウが商材化されたことで、「ゆっくりな型」のアカウントが2024年後半〜2025年に大量発生した。 顔バレなしで美女を売れるという形式は、もはやゆっくりなだけのものではなくなった。
希少性が消えると、価格は下がる。 そして「誰もが見たことのある絵」になると、ファンの新規獲得コストが跳ね上がる。
先行者であるゆっくりなも、もはや「ナンバーワンの希少性」を持てなくなった。
衰退要因2:生成AI技術の進化で「完璧な顔」が誰でも作れるようになった
2023年と2026年で、生成AI技術は別物といっていいレベルで進化した。 Stable Diffusion、FLUX、Z-Image系——「完璧に整った顔」は、もはやコモディティだ。 スマホアプリでも、それなりのクオリティのディープフェイクが作れる時代になった。
「ゆっくりなの整いすぎた顔」は2023年には希少だったが、2026年には「誰でも作れる絵」になった。 技術的優位は完全に消えた。

衰退要因3:myfans規約改定で「生成AIコンテンツ」が明文で禁止された
これが帝国崩壊の決定打になった。
myfansの利用規約第12条(主催者が提供するコンテンツの禁止事項)第1項では、以下のコンテンツが禁止コンテンツとして明確に列挙されている。
(1)第三者の権利を侵害する作品、物品
(2)権利処理されていない楽曲の演奏・歌唱
(3)商品の販売
(4)児童ポルノに関する作品・物品
(5)盗品
(6)法令に違反する作品、公序良俗に反するコンテンツ
(7)生成AIにより作成されたコンテンツ
(8)その他、弊社が不適切と判断したコンテンツ
「条件付き」でも「グレーゾーン」でもない。明文化された完全禁止だ。
そしてこの規約違反に対する処分も極めて重い。同条第3項では、違反主催者に対し以下を課せると定めている。
売上金相当額の没収
手数料率の変更
ランキングからの除外
その他上記に類似する処分
つまり、ディープフェイクが「生成AIにより作成されたコンテンツ」と判定された瞬間に、売上の没収+ランキング除外という事業継続不能レベルのペナルティを受ける構造になった。
「ゆっくりな型」のビジネスは、この条文ひとつで構造的に成立不可能になった。
仮にどれだけフォロワーがいても、規約違反と判定されれば売上は没収され、ランキングからも消える。
帝国の収益エンジンを、運営側が条文で断ち切ったのだ。
衰退要因4:SNS集客導線の断絶
Xのアカウントは2025年後半以降、ほぼ動いていない。 Instagramも実質休眠。 TikTokは2025年9月頃までは投稿が確認されているが、以前のような毎日投稿の頻度ではない。
凍結なのか、本人判断による撤退なのかは公式には不明だが、結果として「TikTok/Instagram→myfans」の集客導線が断絶した。 新規ファンの流入が止まれば、サブスクは解約だけが進む。
特に多言語Instagramの停止は痛い。 海外プラットフォーム(OnlyFans/Fansly)への流入も同時に止まったということだから、グローバル収益の柱が一気に細った可能性が高い。
衰退要因5:るるたんの台頭による「本物」の逆襲
そして決定打を打ったのが、るるたんの登場だった。
るるたんは生身の本人で勝負しつつ、徹底したセルフプロデュースで、myfansとFantiaの両方で1位を取った。 同人AVの売上で年5億円規模というインタビュー証言まで出ている。
ファン心理の振り子が、AIから本物に戻った瞬間だった。 「整いすぎた絵」より、「本物の人間の存在感」の方が、最終的にはエンゲージメントが高い——市場がそう答えを出した。
帝国の終わり:本人による「段階的停止」の公式宣言
そして2026年5月現在、ゆっくりな帝国の終わりは、本人によって公式に宣言された。
myfansの本人アカウント(@yukkuri_rina、表示名「莉奈」)のプロフィール欄には、以下の一文が明記されている。

「myfansでの活動は、今後段階的に停止予定です」
しかも投稿数は「0」。
過去に投稿していたコンテンツは全削除済み。
フォロワー281.6Kは残っているが、コンテンツ供給は完全に停止している。
ここまで僕が書いてきた「衰退要因」は、もはや分析する対象ですらない。
ゆっくりな帝国は、本人の意思によってmyfans上での幕を下ろした。
ゆっくりな帝国は、myfans上では終わった。
ただし、彼女自身は「段階的に停止予定」と書いている。
完全な引退宣言ではなく、撤収段階に入った、という言い方を選んでいる。
ここから彼女がどこに向かうのか——海外プラットフォームに完全移行するのか、別人格で再スタートするのか、本当に引退するのか——は、まだ分からない。
ただ、myfans王者「ゆっくりな」としての時代が、今まさに静かに終わろうとしているのは、もう動かない事実だ。
教訓 ── プロデューサーは何を学ぶべきか
ゆっくりな帝国の興亡から、僕がプロデューサーとして抽出した教訓は5つある。
教訓1:希少性は必ず消える、と前提に置く
どんなビジネスモデルでも、最初の1〜2年は「独占的優位」で稼げる。 しかし、誰もが模倣できる構造である限り、希少性は必ず消える。
特にAI技術を使ったビジネスは、技術自体がコモディティ化する速度が異常に速い。 2023年に「画期的だった手法」が、2026年には「誰でもやってる手法」になる。
帝国を築くなら、「希少性が消えた後も生き残る軸」を最初から組み込んでおく必要がある。 属人性、ブランド、顧客関係——技術以外の堀を持つこと。
教訓2:プラットフォーム依存は最大のリスク
myfansの規約変更ひとつで、月収数千万円の事業が崩れる。 これは事業として極めて脆い構造だ。
複数プラットフォーム展開は最低条件で、本来は自社サイト・独自決済まで持つべきだった。 規約変更リスクをヘッジするには、最終的に「自分の城」を持つしかない。
教訓3:「組織化」と「属人性」は両立しない
ハイブリッド型の最大の強みは、組織化によるスケールだった。 しかしその同じ理由で、「この人だから応援したい」という属人的なファン心理を作りにくい。
ファンは、本気で応援したい対象には深く課金する。 逆に「綺麗な絵」だけでは、最初の興奮が冷めた瞬間に解約される。
これは、ルルタンが本物の属人性で最終的に勝った構造的理由でもある。
教訓4:規約変更の兆候は早期に読む
myfansが生成AI規制に動く兆候は、2024年後半から十分にあった。 他のプラットフォーム(FANBOX、Fantia、Patreon、Onlyfans)が次々とAI規制を強化していたからだ。
業界全体の流れを見れば、myfansが追随することは予想できた。 予想できたなら、規制前に売上を最大化し、規制後の代替プラットフォームへの移行計画を立てておくべきだった。
プロデューサーの仕事の半分は、こうした「規制の波を読む」ことだ。
教訓5:「興」と「衰」は同じスピードで来る
ゆっくりなが頂点に登るまで、約1.5年。 頂点から実質撤退まで、約1〜1.5年。
ファンクラブビジネスでは、「上がるのと同じスピードで落ちる」ことを前提にした事業設計が必要だ。 月1億の最盛期に、月3000万のときと同じ生活コストで動いていれば、衰退期もまだ余裕がある。 逆に最盛期に合わせて固定費を膨らませると、衰退期に一気に崩れる。

これは、エンターテイメントビジネス全般に共通する鉄則でもある。
AI美女2.0時代に何が起きるか
ゆっくりな帝国は終わった。 しかし、AI×ファンクラブビジネスというモデル自体が終わったわけではない。
2026年現在、生成AI技術はさらに進化し、「動画レベルでも完璧なAI美女」が現実的になりつつある。 体まで含めて完全AI生成のクリエイターが、新しい形で立ち上がってくる。
そのとき、ゆっくりなが残した教訓は、必ず誰かが踏み直すことになる。 希少性は消える。プラットフォーム依存は危険。組織化と属人性は両立しない。規約変更を読め。落ちる速度は上がる速度と同じ。
僕は、彼女の興亡を「失敗例」とは思っていない。 2〜3年間で月数千万〜億規模の収入を作り、業界全体に新しいビジネスモデルを提示し、無数の後発業者を生んだ。 これだけのインパクトを残した個人クリエイターは、myfans史上ほとんど存在しない。
ただ、これからの数年で、彼女のモデルを越えていく人が必ず出てくる。 そのとき、何が違うのか——それを観察するのが、僕の次の仕事になる。
次回予告:るるたんを徹底解説する

この記事で何度か登場した「るるたん」。
myfansとFantia両方で1位を取り、同人AV売上で年5億規模を叩き出し、ゆっくりな帝国の崩壊と入れ替わるように現myfansの王者へと駆け上がった存在だ。
ゆっくりなが「AI×組織化×多媒体展開」で築いた帝国に対して、
るるたんは「生身×本物の属人性×徹底したセルフプロデュース」で頂点に立った。
モデルとしては完全に対極にある。
この2人を並べて見ると、ファンクラブビジネスにおける「AI型」と「本物型」の構造的な勝ち負けが、はっきりと見えてくる。
次回の記事では、るるたんが何をして、何をしなかったのか。
なぜ生身で勝てたのか。属人性をどう資産化したのか。プロデュース体制はどう組まれているのか。
70名見てきたプロデューサーの目で、もう一度、丁寧に解剖していく。
ゆっくりなを読んでくれた方は、ぜひ続けて読んでもらえると嬉しい。
公開したらXでお知らせします。





